【相談事例】遺産分割協議は不要?|法定相続分で相続したい

【記事監修】:弁護士 荒井和子
【所属事務所】弁護士法人エースパートナー法律事務所 
 

遺言がない場合、各相続人の相続割合は、原則として法定相続分(民法第900条)に従って定められることになります。

そして、具体的にどのような財産を誰に分けるかは、遺産分割協議で話し合います。

今回、遺産分割協議における相談事例をご紹介します。

父が亡くなったので法定相続分のとおりに相続したい

相談者:愛子さん(仮名)
遺産:2800万円相当の自宅の土地、預貯金3200万円

【家族構成】
太一さん:愛子さんの父 故人
美代さん:愛子さんの母
真知子さん:愛子さんの姉(愛子さんとは仲が悪い)
正さん:愛子さんの弟

先日、私の父が亡くなりました。

相続分を確定したいのですが、家族間で意見がまとまりません。

相続人は、母の美代、姉の真知子、弟の正です。

私は、法定相続分に従って分配した方が公平だと思うので、そのように分割したいと思っています。

母は、老い先短いし、自宅に住ませてくれるのなら子ども達の意思を優先させると言っています。

弟も、みんなの意見がそろうならそれに従うと言ってくれています。

ですが姉は、私の意見に反対のようです。

母に財産を残すことは賛成だけど、法定相続分で分けると権利がかえって難しくなるから嫌だと言っています。

姉と私は仲が悪いので、姉が意見を曲げることはないでしょう。

母と弟は私の意見に異論はないようですし、独断で法定相続分による手続きを進めたいと思っています。

私だけでそのような手続きを進めることはできるでしょうか。

弁護士の見解

愛子さんは、独断で法定相続分による手続きを進めたいとのことですが、相続人の間で意見が揃わないままで手続きを進めることは難しいといえます。

まず、法定相続分どおりに遺産分割を行う場合でも、遺産分割協議を行わないわけではありません。

相続人全員で遺産分割方法を決めた上で、相続財産を分けることができます。

そのため、相続人全員で、「法定相続分」で遺産分割をするということを決める必要があります。

今回の愛子さんのケースでは、姉の真知子さんが法定相続分で遺産分割を行うことに同意していないので、同意してもらえるよう、まずは説得する必要があります。

仮に、愛子さんの独断で勝手に手続きを進めようとした場合、真知子さんが「同意していない」と主張し争いに発展する可能性が高いです。

また「真知子さんの同意を得た」という証拠がない場合、協議自体が無効となり、話し合いをやり直さなければならなくなることもあります。

なお、真知子さんを説得し、法定相続分で遺産分割をすることが決定したときには、任意で「法定相続分で遺産分割することに相続人が全員同意した」という書面を残しておいた方が良いです。

書面で残さないと、後になって意見を翻されたときに水掛け論になる可能性が高いので、証拠として残しておきましょう。

法定相続分は、一見平等な制度に見えますが、遺産に不動産が含まれている場合、他の相続人と共有状態になる可能性があります。

共有状態にあると、当該不動産の売却や大幅な改装等をしたいと思っても、不動産の名義人全員の同意がなければ行うことができません(民法第251条)。

不動産の共有状態は後々大きなトラブルに発展するリスクがあることを認識した上で、法定相続にすべきかどうか話し合った方が良いでしょう。

当事者同士の話し合いは、たとえ家族関係が良好であったとしても、感情的になってしまいうまく進まないケースが少なくありません。

そのため、家族間での解決が難しい場合には、遺産分割調停、または遺産分割審判を家庭裁判所に申し立てる方法があります。

遺産分割調停とは、裁判所が仲介役となって話し合いで遺産分割のトラブルを解決する方法です。

対して遺産分割審判とは、裁判官が提出した資料や当事者の主張を考慮して、遺産分割の割合等を判断してもらう方法です。

一般的には、法定相続分の割合で分けられることが多いです。

通常は、調停で整わない場合、審判に移行する流れとなりますが、調停を経ずに審判を申し立てることもできます。

家庭裁判所の審判の結果に不満を持った場合には、審判書を受け取った翌日から2週間以内に即時抗告を行えば、裁判で争うこともできます。

遺産分割でお困りの方は弁護士へ相談しましょう

遺産分割調停や審判、裁判になると、トラブル解決までに時間が必要になったり、主張の違いから家族関係が修復できないほど壊れてしまう可能性があります。

そのため、遺産分割協議で解決を目指した方が良いでしょう。

ただし、前述の通り、当事者同士だけの話し合いは双方が主張を譲らず話が平行線になってしまうことが少なくありません。

相続は争う時間が多くなるほど、争いが激化し、泥沼になりかねません。

そのため、家族関係がこじれる前に交渉術に長けている弁護士に相談・依頼して、交渉を代わりに行ってもらった方が良いでしょう。

まとめ

上記のように、遺産分割は相続人全員の同意を得て行いましょう。

その際、法定相続分通りに分割するかは検討が必要です。

どのように分割すればトラブルが生じないか、相続人全員が納得できるかが重要になります。

遺産分割でお困りの際は、弁護士に相談することをおすすめします。

【監修者】:弁護士 荒井和子
【所属事務所】弁護士法人エースパートナー法律事務所